ケーススタディ(一般論)

オーナーが役員へ配当還元価額で株式を譲渡し、
その後に持株会社へ譲渡したときの時価と課税関係

同族会社のオーナーが、親族でない役員へ株式の一部を配当還元価額で譲渡し、
近接した時期に残りを持株会社へ法人税法上の時価で譲渡する場面を題材に、
所得税・贈与税・法人税で時価がどう変わるか、当局が更正を考えるならどんな論理になるかを整理しました。

本ページは一般的な整理であり、個別の事案への当てはめは、
株主構成・契約の内容・資金の流れなどの資料を確認したうえで行う必要があります。
法令等は2026年10月27日時点で確認しています。

結論

先に結論

個人から個人への譲渡では、オーナーに時価で所得税を課税する規定はありません。
時価で譲渡したとみなす所得税法59条1項は、法人に対する譲渡に限られるためです。

親族でない役員が配当還元価額で取得しても、贈与税は生じにくいと考えられます。
ただし理由は「次の譲渡まで課税が繰り延べられるから」ではありません。
役員の側で評価通達を当てはめると、同族株主以外の株主として配当還元価額が時価になり、
対価との差額が生じない、というのが根拠です。

近接した持株会社への譲渡を理由に更正できるかは、持株会社が誰の会社かで分かれます。
オーナーの会社なら、更正の論理は組みにくいと考えられます。
役員が出資した持株会社で、二つの取得が一つの計画なら、
評価通達6項による贈与税の更正の余地が、事実関係しだいで残ります。

事例の流れ

第一次譲渡
オーナー A議決権の大半を保有
中心的な同族株主
→
役員 B親族でない役員
配当還元価額で一部を取得
第二次譲渡
オーナー A近接した時期に
→
持株会社 Y社残りを法人税法上の時価で取得
ケース1:Aの会社/ケース2:Bの会社

前提の詳細は詳細タブの1章へ

同じ株式でも、税目と立場で時価の測り方が変わる

場面使う通達株主区分の判定この事例での結果
オーナーの所得税
(みなし譲渡の判定)
所得税基本通達59-6譲渡人の
譲渡直前の議決権
中心的な同族株主として
小会社とみなした原則的評価
役員の贈与税
(みなし贈与の判定)
財産評価基本通達
(59-6の読替えは使わない)
取得者の
取得の日の議決権
同族株主以外の株主として
配当還元価額
持株会社の法人税
(受贈益の判定)
法人税基本通達4-1-6・9-1-14の考え方(目安)「当該法人」について判定
(時点の読替えなし)
取得後に中心的な同族株主なら
59-6とほぼ同じ条件

裁判例も、譲渡所得の計算上の株式の評価額と、譲受人の法人税の計算上の評価額が、
同一にならない場合も想定し得る、と述べています。
「時価は一つ」とする主張は退けられています。

通達の条件の違いは詳細タブの2章へ

取引ごとの課税関係

取引当事者課税の考え方見込み
第一次譲渡オーナー実際の対価で譲渡所得を計算。
個人への譲渡にみなし譲渡はなく、59-6も使わない
時価課税なし
第一次譲渡役員贈与税の時価は配当還元価額。
対価がそれ以上なら差額は生じない
贈与税は生じにくい
第二次譲渡オーナー法人への譲渡なので59条1項2号の対象。
対価が59-6の価額の2分の1以上なら、みなし譲渡なし
時価近くなら問題なし
第二次譲渡持株会社時価を下回る取得なら差額が受贈益。
時価で取得していれば生じない
時価近くなら問題なし

取引ごとの詳細は詳細タブの4章から

当局が更正を考えるなら

ケース1:持株会社がオーナーの会社更正の余地は小さい
取引の後も、支配はオーナーのグループに残ります。
役員は取得の前後を通じて少数株主のままで、
近接した譲渡は役員の株主区分に影響しません。
問題になりうるのは、名義株の認定くらいです。
ケース2:持株会社が役員の会社事実関係しだい
最終的に役員のグループが会社を支配します。
取得の順番が逆なら原則的評価だった点が、論点になります。
評価通達6項による原則的評価への置き換えが、
最も現実的な更正の論理と考えられます。
ケース2でリスクが高まる事情
  • 二つの取得が同日の一体の契約になっている、または事前の確約で結ばれている
  • 役員が自己資金を出しておらず、持株会社への転売価格が事前に決まっている
  • 持株会社などが、役員の株式を高い価額で買い取ることを約束している

更正の論理と裁判例は詳細タブの8章へ

よくある理解の確認

よくある理解評価整理
59-6は判例を受けて新設された一部修正平成12年からある通達で、令和2年の改正は明確化。
譲渡人基準という趣旨の理解は正しい
取得価額が低いので課税が繰り延べられるだけだから、役員に贈与税はかからない理由は不可贈与税の要件は、取得時点の時価と対価の関係だけ。
根拠は、役員の時価が配当還元価額になること
役員なので、贈与税は原則的評価額で計算すべき場合による親族でなく同族株主に当たらなければ、役員でも配当還元。
役員の要件が効くのは、役員が同族株主の場合
個人間の低額譲渡では、譲受人が取得費を引き継ぐ前提を修正引き継ぐのは、時価の2分の1未満で譲渡損失が出た場合だけ。
譲渡益が出ていれば、取得費は実際の対価
持株会社への譲渡は「法基通9-1-14の価格」なので問題ない結論は妥当9-1-14は評価損の場面の通達。
根拠は59-6(オーナー)と2-3-4等。判定者と時点の違いに注意
第一次譲渡の価額を理由に更正するのは無理筋場合によるオーナーの所得税は同意できる。
役員の贈与税は、ケース2で6項の余地が残る

設例による取得費の確認は詳細タブの6章へ

主な確認事項

  1. 役員とオーナーの親族関係・生計の状況(同族関係者に当たるか)
  2. 役員の取得後の議決権割合と役職(副社長などの職制上の地位か)
  3. 持株会社の出資者と議決権の構成(オーナーの会社か、役員の会社か)
  4. 二つの譲渡の契約日・決済日と、両契約の関係(同日か、条件付きか、事前の合意があるか)
  5. 役員の取得資金の出所と、取得後の転売や買取り保証の予定の有無

確認事項の全件は詳細タブの11章へ

1 事例の前提

2 3つの時価

法令上の時価が、客観的交換価値であることは、どの税目でも共通しています。
違うのは、それを測る通達の当てはめで、判定する人と時点が税目ごとに異なります。

項目所得税基本通達59-6(オーナーの所得税)法人税基本通達4-1-6・9-1-14(法人の時価)
適用の場面法人に対する贈与・著しく低い価額での譲渡(所得税法59条1項)の時価4-1-6は評価益、9-1-14は評価損の場面。
法人が売り手の譲渡は2-3-4が4-1-4〜4-1-6を準用
株主区分の判定譲渡人の譲渡直前の議決権で、評価通達188の(1)〜(4)を判定読替えの定めなし
中心的な同族株主の場合譲渡人が譲渡直前に中心的な同族株主なら、小会社とみなす「当該法人」が中心的な同族株主なら、小会社とみなす
土地・上場有価証券譲渡時の価額その時の価額
法人税額等相当額控除しない控除しない

贈与税(相続税法7条)の時価は、評価通達をそのまま使い、取得者について判定します。
59-6の読替えは所得税の通達であり、贈与税には使いません。

裁判例

個人から法人への株式譲渡の差戻控訴審は、株式譲渡に伴う譲渡所得の計算における株式の評価額と、
譲受人の法人税の計算における評価額が、同一にならない場合も想定し得る、と述べています(東京高判令和3年5月20日、上告不受理)。
法人税基本通達9-1-14を使って「時価は一つ」とする主張は、この判決で退けられています。

3 所得税基本通達59-6の沿革と判例

最高裁は、譲渡所得課税は譲渡人に生じた増加益を清算するものであり、
譲受人の会社への支配力はその増加益の額に影響しないとして、
少数株主に当たるかどうかも譲渡人について判断すべき、としました(最判令和2年3月24日)。

この事例への当てはめ

59-6は、所得税法59条1項を適用する際の時価の定めです。
個人への第一次譲渡には59条1項がそもそも適用されないため、
59-6による原則的評価額が問題になる場面はありません。

4 第一次譲渡:オーナーの所得税

例外になりうる場面

役員が名義人にすぎず、実質はオーナーが株式を持ち続けている(名義株)と認定されると、
譲渡そのものがなかったことになります。
役員を経由した法人への譲渡と認定されれば、オーナーに59条1項2号が適用される理屈があります。
いずれも、役員の自己資金による支払い、配当や議決権の帰属といった事実で決まります。

5 第一次譲渡:役員の贈与税

相続税法7条の要件

著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合、対価と時価との差額を、
譲渡者から贈与により取得したものとみなします(相続税法7条)。
要件は取得時点の時価と対価の関係だけで、将来の譲渡で課税が取り戻されるかどうかは関係しません。

評価通達188の当てはめ

区分配当還元方式になる株式役員の要件
188(1)同族株主のいる会社で、同族株主以外の株主が取得した株式なし
188(2)中心的な同族株主のいる会社で、中心的な同族株主以外の同族株主のうち、
取得後の議決権が5%未満の者が取得した株式
役員は除く
188(3)同族株主のいない会社で、株主の1人とその同族関係者の議決権が15%未満の者が取得した株式なし
188(4)中心的な株主のいる同族株主のいない会社で、取得後の議決権が5%未満の者が取得した株式役員は除く

株主の1人とその同族関係者の議決権が50%超となるグループがあるとき、
そのグループに属する株主だけが同族株主になります。
親族でない役員は、オーナーの同族関係者でない限りそのグループに入らず、
同族株主以外の株主として188(1)に当たり、副社長であっても配当還元方式で評価されます(評価通達188-2。原則的評価額が上限)。

役員が親族などの場合

役員がオーナーの親族など同族関係者であれば、同族株主になります。
取得後の議決権が5%未満でも、課税時期に役員である、または法定申告期限までに役員となる場合は、
配当還元の対象から外れ、原則的評価になります(評価通達188(2))。
その場合は、原則的評価額と対価の差が「著しく低い」に当たるかが問題になります。

近い構図の裁判例

親族関係のない少数株主(議決権約6.6%)が配当還元価額程度の価額で取得した事案で、
課税庁が売買実例価額を時価として評価通達6項を適用したのに対し、
裁判所は特別の事情を認めず、7条による課税を取り消しました(東京地判平成17年10月12日、確定)。

6 所得税法60条と取得費

所得税法60条1項2号が取得費の引継ぎを定めるのは、59条2項に該当する譲渡、
つまり個人に対して時価の2分の1未満で譲渡し、譲渡損失がなかったものとみなされた場合に限られます。

設例(時価1,000万円の土地を100万円で個人へ譲渡)譲渡者の取得費が0円譲渡者の取得費が300万円
譲渡者の所得税譲渡益100万円に課税譲渡損失200万円はなかったものとみなす(59条2項)
60条1項2号当たらない当たる
譲受人の取得費実際の対価100万円(所得税法38条1項)譲渡者の取得費300万円を引き継ぐ
譲受人の贈与税差額900万円がみなし贈与(個人間の対価を伴う取引で取得した土地は、通常の取引価額で評価)

取得費が0円の設例では、譲受人が将来1,000万円で売ると、譲渡益900万円に所得税がかかります。
みなし贈与額を取得費に加える規定はなく、同じ900万円に贈与税と所得税が重ねてかかる結果になります。
前記の差戻控訴審も、税目ごとに評価額が異なることに伴う二重課税の主張を採用しておらず、
課税対象が税目ごとに異なるという整理が、現在の裁判例の立場と考えられます。

オーナーに時価課税ができない理由

理由は、59条1項が法人に対する譲渡に限られることです。
60条は譲受人側の取得費の規定であり、オーナーに課税しない理由ではありません。

7 第二次譲渡:オーナーと持株会社

オーナーの所得税

持株会社の法人税

通達の根拠の整理

9-1-14は評価損を計上する場面の通達です。
売り手が法人の場面は2-3-4、オーナーの所得税は59-6が根拠になります。
判定者(オーナーか、持株会社か)と判定の時点が違うため、株主構成によっては両者に差が出ることがあります。

8 更正の論理と裁判例

ケース1:持株会社がオーナーの会社

持株会社はオーナーの同族関係者であり、第二次譲渡の後も、会社の支配はオーナーのグループに残ります。
役員は取得の前後を通じて少数株主のままで、近接した譲渡は役員の株主区分に影響しません。
このため、第一次譲渡の価額が低いとして、所得税でも贈与税でも更正する論理は組みにくいと考えられます。

ケース2:持株会社が役員の会社

役員が出資した持株会社は、役員の同族関係者になります(法人税法施行令4条2項)。
順番を逆にして持株会社が先に取得していれば、役員は同族株主として原則的評価になったはずです。
取得の順番によって評価方式が変わる点が、更正の論点になります。

1
評価通達6項(最も現実的)通達どおりの評価が実質的な租税負担の公平に反する特別の事情があるとして、
役員の取得株式を原則的評価で評価し、7条を適用します(最判令和4年4月19日の枠組み)。
特別の事情は、課税庁が示す必要があります。
2
取得後の議決権に持株会社の取得分を含める両取引が同日であったり、一つの契約や事前の確約で結ばれていたりする場合に、
取得の時点で役員のグループに支配が移っていたと構成します。
通達の文言(課税時期の議決権)から離れるため、両取引の一体性を示す事実が必要です。
3
役員を導管とみる実質課税役員が資金を出さず、持株会社への売却価格が事前に固定されていたような場合に、
オーナーから持株会社への直接の譲渡と認定し、オーナーに59条1項2号を適用します。
役員が自己資金で取得し、その後も保有を続ける承継型では、成立しにくいと考えられます。

裁判例の状況

見立て

ケース2でも、両取引にそれぞれ独立した合理性(役員の経営参加、資金の調達、取得後の保有継続)を示せれば、
7条による更正は容易ではないと見ています。
逆に、同日の一体の契約、役員から持株会社への短期の転売、高値での買取りの約束といった事情があると、
6項のリスクが高まります。

法人税法上の時価を第一次譲渡に持ち込めるか

税目と立場によって時価は異なりうるため、法人税法上の時価をそのまま第一次譲渡の時価とするのは、
譲渡先の態様を無視することになり、難しいと考えられます。
当局が持ち込むとすれば、6項により役員の評価を原則的評価に置き換える形になると見ています。

9 役員への所得税課税の可能性

オーナー個人から受けた経済的利益は、個人からの贈与(みなし贈与を含む)として所得税は非課税で、
贈与税の領域になります(所得税法9条1項17号)。
会社が実質的に負担した役員報酬と認定されるような事情がない限り、
給与所得として課税される可能性は低いと考えられます。

役員が将来株式を売却するときの取得費は、実際に支払った価額です(所得税法38条1項)。
持株会社への転売を予定している場合、その差益は役員の譲渡所得になります(租税特別措置法37条の10)。

10 評価見直しの動き

国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第5回(2026年8月20日)の骨子では、
配当還元方式を特別の例外措置として存置したうえで、
適用対象を「特定の少数株主の取得した株式」に縮小する案が示されています。

同じ資料では、配当還元方式の濫用の例として「株主構成の操作」「一時的な第三者への株式譲渡」が挙げられています。
いずれも検討案の段階で、適用時期は公表されていません(報道では令和9年度改正、早ければ令和10年1月からとされています)。

実務上の注意

見直し後は、役員の取得割合によっては配当還元の対象外となる可能性があります。
また、現行の通達のもとでも、当局が同じ問題意識で6項を検討する可能性は意識しておく必要があります。

11 確認事項の全件

  1. 役員とオーナーの親族関係・生計の状況(同族関係者に当たるか)
  2. 役員の取得後の議決権割合
  3. 役員の役職(副社長などの職制上の地位か)と、役員就任の時期
  4. 持株会社の出資者と議決権の構成(オーナーの会社か、役員の会社か)
  5. 二つの譲渡の契約日と決済日、両契約の関係(同日か、条件付きか、事前の合意があるか)
  6. 役員の取得資金の出所(自己資金、借入、オーナーからの貸付)
  7. 取得後の配当の受領と、議決権の行使の状況
  8. 役員から持株会社への転売や、買取り価格の保証の予定の有無
  9. 第二次譲渡の価額の算定根拠(59-6と法人税基本通達のどちらの条件で計算したか)

12 根拠条文・通達・判例の整理

項目根拠
みなし譲渡・損失の否認所得税法59条1項2号・2項、同法施行令169条
みなし譲渡の時価所得税基本通達59-6(令和2年8月28日付改正)、資産課税課情報第22号(令和2年9月30日)
同族会社への譲渡と行為計算否認所得税基本通達59-3、所得税法157条
取得費・取得費の引継ぎ所得税法38条1項、60条1項2号
譲渡所得・株式の税率所得税法36条、租税特別措置法37条の10
贈与による取得の所得税非課税所得税法9条1項17号
低額譲受のみなし贈与・時価相続税法7条、22条、評価通達1(2)
取引相場のない株式の評価評価通達6、178、188、188-2
土地等の個人間取引の評価平成元年3月29日直評5・直資2-204
同族関係者・役員の範囲法人税法施行令4条、71条1項
法人の受贈益・有価証券の時価法人税法22条2項、法人税基本通達2-3-4、4-1-4〜4-1-6、9-1-13、9-1-14
譲渡所得の株主区分は譲渡人で判定最判令和2年3月24日(集民263号63頁)
所得税と法人税で評価額が異なりうる東京高判令和3年5月20日(差戻控訴審、令和4年2月18日上告不受理)
評価通達6項の枠組み最判令和4年4月19日(民集76巻4号411頁)
少数株主の配当還元価額程度での取得東京地判平成17年10月12日(確定)
買取保証と6項東京地判平成11年3月25日ほか(税務大学校論叢第94号の整理による)
6項の最近の適用例東京高判令和7年6月19日(上告中。解説記事による)
評価見直しの検討案取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 第5回資料・骨子(2026年8月20日)
確認できていない点
  • 「個人である株主等の使用人」に発行会社の役員が含まれるかを明示した通達・判例。
  • 個人が自らの資金で少数株を取得し保有を続ける場合に、取得の順番を理由に6項を適用した裁判例・裁決。
  • 評価見直しの適用時期の公式な発表。